2014年3月、マイセン磁器製作所の絵付師、エルケ・ダンネンベルクさんがそごう千葉店と髙島屋京都店のマイセン展のために来日し、各会場で絵付実演を行ないました。
卓越した技術を披露したダンネンベルクさんのインタビューをご覧ください。
エルケ・ダンネンベルク氏(以下E・D):一番好きな絵柄は、アラビアンナイトです。アラビアンナイトの絵付は、絵付師に筆使いのテクニックが要求されますが、絵付にはある程度の構成の自由が与えられています。つまり、アラビアンナイトの絵柄の一部分は、絵付師が自由に描いていいのです。
また、アラビアンナイトには絵柄のバリエーションが多く、様々な場面を描くことができるので飽きることがありません。
コレクションされる方も楽しいと思いますが、描いている私もとても楽しいのです。
E・D:昔の作品で印象深いのは、1990年頃にやったフィギュアの絵付です。私は現在、現代絵付部門で仕事をしていますが、それ以前はシュタファージュ(人形の絵付)の絵付師をしていました。「サイに乗るトルコ人」という古いフィギュアの絵付をしたことがあるのですが、昔ドイツでは誰もサイを見たことがなかったので、細かなディテールがサイとはだいぶ違っていて、とても愉快に思ったことを思い出します。
最近の作品で心に残っているのは、「善と悪」というタイトルのアラビアンナイトの大きな花瓶です。湧き立つ雲のようなランプの精と、花瓶の裾の部分の波を、パープルの色彩で描くもので、これは親指大の大きな筆でうねるように描きます。描き始めたら終わるまで筆を休めることができないので緊張しますが、大変楽しく、やりがいのある作品でした。
E・D:アラビアンナイトには物語性があり、多くの可能性を秘めているので、これからも様々な絵柄を提案して、アラビアンナイトの世界を広げていきたいと思っています。
また、昔の図柄で紙の上のスケッチだけが残っているもの――たとえばミュンヒ・ケー(※)のスケッチなどを磁器の上に再現して、新しい限定作品を作ってみたいと思います。
プライベートでは、世界のあちこちを旅行して回りたいですね。
※ウィリー・ミュンヒ・ケー(Wili Münch-Khe)
1912年からマイセンで活躍した絵付師。2012年世界限定作品花瓶「ふしぎな鳥」のような、1912-1913年に考案したユーゲントシュティール(アール・ヌーヴォー)の色濃い独特の作風が人気。
E・D:私は初めて日本に来て、日本人と日本文化に魅了されました。有田の磁器は素晴しいと思いました。特に私が感動したのは和食の奥の深さです。和食は、お腹と目の両方を喜ばせる文化であり、素材や色や種類の驚くべき多様性をもっています。日本では、実演のほかにお食事の楽しみがあって幸せでした。ドイツに帰ったら、本物の和食が食べられないのが残念ですね。
また、日本人の心遣い、親切さ、他人を思いやる心は、決して忘れないでしょう。
E・D:今回、日本のマイセン磁器ファンの方たちに直に触れる機会を得て、マイセンに対する愛情や知識の深さに驚かされました。そういう方たちのためにも、これからもっともっとよい作品を作っていきたいと思います。
実演の際に、ダンネンベルクさんが着けられていた「パグ」のペンダント。もちろんマイセンのものです。とても可愛らしく、ダンネンベルクさんにお似合いでしたので、ペンダントについてお尋ねしたところ、ダンネンベルクさんが勤続25周年のときに、記念として、ご自身で絵付した完全オリジナルの作品だそうです。 マイセンで絵付師として長年活躍されておられるからこその特権ですね。