2023年5月、マイセン磁器製作所のアート部門責任者、リアーネ・ヴェルナー氏が、そごう横浜店で開催された「マイセン展」のために来日しました。会場では「トークイベント」が行われました。またその折にヴェルナー氏にインタビューも行い、
世界情勢の影響、新作の開発や完成までの道のり、マイセンが大切にしている事などについて幅広く話を聞くことができました。逸品と呼ばれる古典的作品や世界限定作品、人形、プラーク、新規開発など、アート部門全体を統括しているリアーネ・ヴェルナー氏のインタビューをご覧ください。
▲リアーネ・ヴェルナー氏
リアーネ・ヴェルナー氏 プロフィール
Liane Werner
1984年~1987年 ベルリンの大学で経済学を学ぶ
1987年 国立マイセン磁器製作所に入り、営業部所属となる
2000年 営業部長に就任
2013年~ アート部門、人形製作部門の統括責任者として逸品と呼ばれる古典的作品、限定作品、アート作品の開発に携わる
1. 新型コロナウイルス感染拡大や、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響はありますか?
リアーネ・ヴェルナー氏(以下L.W.):新型コロナウイルス感染拡大はようやく沈静化していますが、その影響として観光客は減少したままです。
ロシアによるウクライナ侵攻により、エネルギーコストが非常に上がって苦戦しています。また大きな取引先であったロシアに、出来上がった製品を輸出することができない(ドイツ政府による禁止)ため、売上面でも打撃を受けています。
2.今回、日本オリジナルの新作として展示された「クリスタル・グラズーア」技法によるプラーク。
「クリスタル・グラズーア」は2021年にも発表されていますが、その開発について教えてください。
L.W.:「クリスタル・グラズーア」(結晶釉)は、アーティスト、デトレフ・リッターによって蘇り、まったく新しい魅力を得ました。
彼はいつも何か新しいことに挑戦しています。
開発過程で、「クリスタル・グラズーア」の上に通常の顔料で絵付すると、化学反応によって黒くなってしまうことがわかりました。そこで、まず描きたいモチーフを白の顔料で描き、その後絵付します。バラの花など、面積の広い部分には顔料を「ふるい」でまず均一に落とし、その後色を塗ります。結晶を生じさせるための化学物質や温度調整だけでなく、絵付についても高い技術が必要です。
2021年に、「クリスタル・グラズーア」の上に絵を描いた作品は彼のまったく初めての挑戦として生まれた技法です。
▲トークイベントのヴェルナー氏
▲アーティスト、デトレフ・リッター
▲「クリスタル・グラズーア」(結晶釉)
プラーク「バラ」9MA73/65C166
▲「クリスタル・グラズーア」(結晶釉)
プラーク「馬」9MA73/65C169
※「クリスタル・グラズーア」とは、焼成の時に釉薬の中に雪のような結晶の花が咲く現象のことをいいます。日本でも知られているこの技法は、20世紀初頭以来マイセンで独自の発展を遂げました。
リッターによる作品は偶然性の高い結晶の文様の上に絵付を施した画期的なものです。
3. 今年のマイセンの世界限定作品のテーマは「未知との遭遇」。毎年テーマはどのようにして決めているのかについて教えてください。
L.W.:世界限定作品のテーマを考えるのは毎年大きな課題で、私たちはこれまでに、リモージュ風絵付やパト・シュール・パトのように失われた技法を復活させ、クレタ花瓶のように巨大で(高さ約82cm)、焼物の制作の限界を超えるような作品にも挑戦しました。マイセンには「Make the world a better place.」、「世界をより良い場所に」というモットーがあり、その意味でも、今回環境保護や絶滅危惧種の動物をテーマに取り上げました。若き造形家、マリア・ヴァルターによる彫像「キング ダム」と「ミス ドレス」では、深刻な内容をいかに磁器で表現するかという苦労がありました。(何と言っても美しく、部屋に飾っておきたいものを作らなければならないのですから。)
▲造形家、マリア・ヴァルター
▲制作スケッチ
絵付はタトゥーをイメージしたもので、この絵付によってモダンアートのような雰囲気が生まれています。
左:彫像「キング ダム」73958/900300
ダムとは英語で「愚か」という意味。無能な王様が、地球のような球体を手に、どのようにこの世界を統治したらよいかわからず途方にくれています。しかし、王様が座る岩の下の方から、知恵の象徴であるカメがよじ登ってくる様子。私たちは、カメが王様に知恵を授けてくれることを期待します。
右:彫像「ミス ドレス」73957/900300
きれいな洋服のことばかり夢想している王妃。新しい命や転生の象徴である蝶々が、変化や希望を暗示しています。
4. 新しいフォームやデザインは、どのようして生まれるのか教えてください。
L.W.:毎年アート作品でもテーブルウェアでも、新作を開発しています。その際重要なのは、「市場」です。どの国でどのようなものが求められているか、背景となる文化や習慣、食べ物など、国によってさまざまです。マイセンは手作りですので、その点フレキシブルに要望に応えられると言えるでしょう。特に心がけているのは「若返り」です。そしてこの点で、マイセンはジーケージャパンエージェンシーと同じ方向性を持っています。日本の他業種とコラボレートした作品などはその一例です。
5. マイセンが大切にしていることはどんなことですか?
L.W.:マイセンのモットーは「マイセン―モダンな輝き」です。伝統の継承はもちろん大切ですが、過去に埋もれることなく、「今」を生きること。手工芸の伝統を現代に生かすことです。
▲会場でのヴェルナー氏
6.日本のマイセンファンへメッセージをいただけますでしょうか。
L.W.:私たちはこの数年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で非常に厳しい状況にありました。どうかご自分をいたわり、マイセン磁器ですてきな時間をお過ごしください。300余年の伝統と、ヨーロッパの芸術の歴史から生まれたマイセンをお楽しみください。